芝の育て方(東京40まいる)

芝はどうして緑の絨毯「芝生」になるのか

<まえがき>
僕が住む住宅街はバブル末期1990年代初頭に分譲されました。 地域を長年みてきた地元の庭師さんによれば、 新築販売当時、すべての庭には「美しい芝生」と「四季折々の花木」があったそうです。 しかし10年後には多くのお庭の芝生は草ボーボー。30年経った現在、数える位しか芝庭を維持している家が ないそうです。

ほんのちょっと植物としての「芝のこと」を知ってくれたら、より多くの人が幸せに芝生づくりを楽しめるんじゃないか? それが、家庭芝生専門 YouTube 東京40まいるの動画配信のきっかけです。

この寄稿では、家庭の芝生づくりに興味がある人向けに、
日本で最もポピュラーな「高麗芝」を題材として、として、芝生の魅力について少しずつお話ししたいと思います。

芝の特性と進化のルーツ

「芝」が果樹や他の農産物とちょっと違うのは、敢えて人間が生存の危機を与え続けることで美しい絨毯を形成させる点 。
「芝生」というのは人間が芝の性質を活かして造る究極の不自然なんです。

芝の進化の起源はステップやサバンナ、大草原です。痩せた土地で樹木が育たず、草食動物たちは草を食べて生きています。 ここでは、草たちは葉を上に伸ばすたび獣に食べられて、充分に光合成をすることができません。

そこで編み出した生き残りの術が「地際を這う」という特殊能力。
芝は、上に伸びた葉を獣に食べ続けられると、 横へ横へと地際に葉の数を増やして必要な光合成量活動エネルギー源である糖の生成量を増やそうとする性質があります。これは、芝の生命の維持をかけた生存本能なのです。植物は葉で光合成をしないと生きていけませんから。

人間はコノ性質を利用して、芝の葉を刈り取り「生存の危機」を与え続けることで芝の葉の密度を濃くし緑の絨毯「芝生」をつくります。

 

芝刈りしないと芝はどうなるのか?

芝はイネ科の植物。より高いところに穂を伸ばし出来るだけ広い範囲に種をばら撒きたがります。
(※高麗芝などは種が退化しているので、穂が種をばら撒いても殆ど発芽しません。)

太陽の光をたくさん浴びるために茎を伸ばし葉はより長く。高麗芝でも15cm 位まで葉を伸ばします。

これが野生化した「自然体」の芝の姿です。芝を甘やかして自由に生きたいようにさせてあげるとこんな姿になります。
ブロック塀の隙間から匍匐茎を伸ばし、塀の割れ目の僅かな隙間から地中深くに根を伸ばす。そして次の安住の地を求めて触手(地上匍匐茎・ランナーといいます)を無数に伸ばす強靭な雑草。 これが芝の本性です。

こんなに強い生命力を持っているからこそ、人間が頻繁に葉を刈り取ってしまっても、それに適応してグングン葉をつくることができるのです。芝生づくりが誰にでも楽しめるのは、この芝の性質のおかげです。

芝刈りをすると葉の密度が濃くなるメカニズム

芝は地表部に2つの生長点葉や茎をつくる器官を持っています。
一つは茎を司る生長点。地表スレスレの定位置にあります。
もう一つは葉をつくる生長点。茎の先端部、葉の付け根の下にあります。

芝刈りを頻繁にする場合

新しい葉をいくら上に伸ばしても、光合成で得られるエネルギー源の量は増えません。
危機を感じた芝は、下の生長点から新しい茎をつくりこれを「分けつ」といいます 、低い位置から新しい葉をつくります。

これにより、芝の密度がどんどん濃くなり、緑の絨毯「芝生」を形成します。よく芝刈りする芝生が密度濃く、美しくなるのはこのためです。

芝の葉をつくる生長点は低い位置にありますので、芝刈りをしても次から次へと葉をつくり続けます。

ほとんど芝刈りをしないで放置する場合

上に葉を伸ばすことで充分な光合成エネルギー生成ができることを察知した芝は、 地際の生長点に指令を送り茎を高く伸ばしはじめます。( これを「節間伸長」と呼びます)
エネルギーや養分は「上に伸びること」を優先に使われるため、芝の密度は疎になり 1本1本の茎が強くたくましく育ちます。

この状態になると、葉をつくる生長点は高い位置に移動してしまうので 芝をダメージなく低く整えるのは困難です。

美しい芝生づくりのコツは「最適芝丈を見つける」

芝の葉はいわばソーラーパネル。太陽の光からエネルギー源を生成する装置です。


芝刈りは、この装置(葉)を刈り取ってしまうわけですから、 芝にとって はたいへんな試練です。
回復できないほど葉を低く刈り取ってしまうと、芝が芝が弱ってしまうことがあります。

芝の回復力 > 刈り込みによるダメージ

そのお庭の環境(主に日照条件)に あった、最適な芝丈を思考しながら見つけるのも芝庭づくりの楽しみの一つです。

<日照が悪い 我が家の芝庭の実例>
限界刈高1cm(衰退と回復の瀬戸際の長さ)
最適刈高は2cm(芝が余力を持って回復できる)

この値は季節、日照時間によって変化します。

どの季節、どの長さだったら芝が生き生きと葉の数を増やし、美しくなるのか?
自身の庭の最適芝丈を見つけるのが、芝庭づくりのアドベンチャーなのです。

一度に刈ってイイ長さは、芝丈の1/3まで

芝の葉をつくる上部の生長点(茎の先端部は、芝丈の概ね半分くらいの位置にあります。)
この生長点を刈り取ってしまうと、その茎は新しい葉をつくることができなくなり、新たに葉原基をつくるまで 葉の生産活動が停止します。これを「軸刈り」といいます。

軸刈りされた芝は、葉をすべて失って光合成によるエネルギー源の生成ができなくなる上、失った器官を再生するために 、 エネルギーを使い養分を消費します。芝が復活するまでの間は消耗戦。芝を元気に育てるためにはこの軸刈りを避ける必要があります。

そこで、芝を傷めるリスクを低減する安全な刈り高設定として、芝刈り「1/3法」というのがあります。

刈り込むのは芝の長さの1/3まで。
芝丈3cmなら、2cmを残す。
芝丈1.5cmなら、1cmを残す。

このルールを守って、芝刈り機の刈り高さ設定をすれば「軸刈り」のリスクを抑えて、安全に芝刈りすることができます。

※このルールは、概ね 1 cm ~5 cmの芝丈の芝生に適用できます。
※1cm未満の芝には適用できません。
※極端に長い芝の場合は目視で茎の先端を確認できます。

次もお楽しみに!

次回は、梅雨時に多くなる芝生の病害と効果的な対処方法についてお話します。

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