芝の育て方(東京40まいる)

春の芝の4つの生育プロセスと芝生の手入れ

春の芝の4つの生育プロセスと芝生の手入れ

<まえがき>
コウライシバをはじめとする暖地型芝は、春に目覚め、夏に向けて繁殖し、秋に蓄え、冬に地表部が枯れて休眠します。2月~4月は芝が休眠から目覚めて代謝を活発化するまでの体幹づくりの時期です。冬が終わる頃、芝は新しい命の営みを始動して、やがて新芽を出します。

春は芝の生命の神秘を鑑賞できる貴重な季節。毎朝、雨戸を開けるたびに刻々と変化し、芝生を形成していきます。

この寄稿では、日々の観察が一層楽しくなる基礎知識として、春の芝が経る4つのプロセスについてご説明します。

芝が目覚めて体幹を完成させるまでの4フェーズ

芝が目覚めて 体幹を完成させるまでの4フェーズ>

【1】休眠

暖地型芝草は、生育に適さない条件になると、地表部の茎・葉に活動資源を送るのを徐々に絞り(最終的には代謝を止め)、土壌の緩衝能に護られた根幹部に生命の資源を集中させてやり過ごす性質があります。冬の芝が枯れて茶色いのはこのためです。

春の芝の4つの生育プロセスと芝生の手入れ
真冬に限らず、たとえば真夏に極度に水が枯渇して生命の危機状態に陥った時などにもこの症状は発生します。生育に適さない環境をやり過ごす芝の命の温存機能、それが休眠です。

暖地型芝草の場合、外気温が10℃を下回る日が殆どを占める1月~2月中旬ごろまで、地表部の多くは枯れたまま、芝の命は休眠前に蓄えたエネルギー源と養分備蓄と共に、土壌の緩衝能に護られて地中の根で待機しています。

この時期に適した芝生の手入れ:休眠末期には枯れ芝の除去がオススメ

地表部の枯芝は、生きている芝の根(根幹部)を厳しい冬の気候から護ってくれる防寒具。地表の様々な激変を、緩やかに穏やかにして、芝の命に直接ダメージを与えるリスクを低減してくれる緩衝材です。地表部の枯芝は、生きている芝の根(根幹部)を厳しい冬の気候から護ってくれる防寒具。地表の様々な激変を、緩やかに穏やかにして、芝の命に直接ダメージを与えるリスクを低減してくれる緩衝材です。

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冬が終わり、芝が目覚める頃になると、この枯芝の役割は終わります。枯れた芝には、秋に感染した病原体が休眠して待機していたり、虫の卵がついていたり、雑草の種が付着していたりします。

芝が目覚める直前に、地表部の枯れ芝はできる限り取り除いてあげると、春の萌芽を健やかに迎える手助けになります。芝の新芽が出る前に、地表の枯芝を除去して芝丈を短く刈り揃えておくと、新しい芽が均一に低い位置から出てくる効果もあります。全国各地の芝生地名所で、毎年、1月末から2月

初旬にかけて冬の終わりの風物詩「芝焼き」が行われるのはこのためです。

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家庭での芝焼きは危険!!

一般的な住宅街の庭で枯れ芝を燃やすと様々な危険を伴います。家庭での芝焼きはオススメしません。条例などで無許可の焚き火や野焼きは禁止されているところもあります。ご注意ください。
芝焼きに代わる手入れとして、芝刈り(低刈り)と枯芝の除去による方法がオススメです。地表部の枯れた芝を、レーキや芝刈り機を使ってなるべく地ギワ低いところまで取り除きます。

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春の芝の4つの生育プロセスと芝生の手入れ枯芝を取り除いた後、根がむき出しに晒されないように、根元に目土入れをしてあげましょう。目土の基本は芝のアタマを必ず出すこと。すべてを埋め込まないように注意してください。

目土の語源は、「目地土」。芝を埋めるものではありません。根元をサポートするイメージで、しっかりと落とし込みましょう。春の芝の4つの生育プロセスと芝生の手入れ

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【2】萌芽

次第に地温が上がってくると、芝は休眠から覚醒して根に蓄えていた炭水化物を糖に加水分解して活動エネルギーとして利用し、新しい細胞を作りはじめます。やがて萌芽として緑の生きた組織が地表に顔を出します。

春の芝の4つの生育プロセスと芝生の手入れ

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芝の茎・葉は、軸の中心部分から伸びてきて、外へ外へと古くなった組織を脱ぎ捨てていく長ネギに似た構造です。新しい芝は、枯芝の軸の部分から出てきたり、或いは、枯芝部分を押し上げるように出てきたりします。

この時期に適した芝生の手入れ:芝生になるべく立ち入らない

萌芽が始まったこの季節、芝生の手入れで気を付けるのは「むやみに立ち入らない」こと。生まれたばかりの芝の新芽は、芝の赤ちゃん。萌芽が始まってから2週間位は静かにみまもってあげまよう。それだけで充分です。

毎日、少しずつ生命の息吹を感じることができるこの季節は、芝生のある生活の醍醐味の一つです。1年に1度しかない新しい命の誕生シーンをお楽しみください。

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アルムグリーンの定期散布開始(第1回目)は、萌芽の前後から

芝の根の発根を促進し、芝の生理活動のチカラを活性化する効果があるアルムグリーンは、芝が目覚め、代謝を始める時期に土壌に薬効があることが理想です。

定期散布(2週間に1回)の開始時期は、この萌芽の時期前後をターゲットにすると良いと思います。

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また、新たに芝張りをしたり、部分補修する人は、芝が目覚めてから成熟する頃までの時期がベストシーズンです。春の芝の4つの生育プロセスと芝生の手入れ

萌芽で使うエネルギー・養分は、前年の秋に備蓄

芝は、新しい細胞をつくるエネルギーや必要な素材(養分)はいったいどうやって調達しているのでしょう? それは前年の夏の終わり、秋の活動に遡ります。

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真夏を過ぎ、温度が下がってきたのを感じると、芝は急に成長のスピードを緩めます。

これは、光合成で生成した糖を「今、成長する」エネルギーとして使う量を低減することで、「来春のため」に備蓄する余剰をつくるためです。

春の芝の4つの生育プロセスと芝生の手入れ秋口に、芝の成長速度が緩くなると暫くして芝の緑色が濃くなる時期があります。これは芝が成長よりも光合成効率を上げた合図。若い未成熟な葉の数が減り、成熟した葉の生産効率を上げるために葉緑素形成を強化する現象です。

光合成で使う光の波長は「緑以外の色」。人間の目に葉の色が緑に見えるということは、植物が「緑以外の光をよく吸収した」ということなのです。

この活動は晩秋まで続きます。枯れゆく秋の芝は、実は一生懸命、翌春のためのエネルギー源と養分を取り込み、蓄えを増やしているのです。

春の芝の4つの生育プロセスと芝生の手入れ冬場、地表部は枯れても、こうして命の活動源は前世代からのバトンで繋がれている。

今、目の前で起こる新芽の出芽は「去年の芝からの贈り物」だということを知ると、なんとも芝たちが愛らしくなります。みんな一生懸命生きているのです。

【3】消費しながら成長する時期

光合成による生産エネルギー量 < 成長に必要なエネルギー量

萌芽した芝は次第に葉を開いていきます。植物は生きていくためのエネルギーを光合成で賄っています。葉の気候から二酸化炭素を取り込み、根から水を吸い上げ、これらを光エネルギーを使って化学反応させることで糖を作り出す作用です。

次第に葉が完成し機能するようになると微力ながら体内の代謝が始動します。

春の芝の4つの生育プロセスと芝生の手入れ

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芝は、萌芽から概ね2週間経つと葉の気孔が開き、根・茎・葉の生理的循環が始動します。
この頃から、微力ながら根が土壌養水分を吸収し始めると云われます。

まだこの段階では、光合成を実行する葉の総量が少ないため、新たに生産した糖は葉に近いところですべて消費し、茎・根の活動エネルギーの多くは相変わらず備蓄の消費に頼っています。葉の総量が増えてくるまでは、芝は未成熟な状態なのです。

この時期であることを示す花時計は、千葉県北部の我が家の場合、スイセンの花です。満開を迎える頃この状態になります。

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この時期に適した芝生の手入れ:雑草の新芽を摘む

次第に雑草の勢力が強くなってきます。こまめに点検し、雑草は小さな芽のうちに一つ一つ摘み続けましょう。
肥料の散布開始時期については諸説ありますが、この時期の芝はまだ、本稼働ではありません。葉の数が十分に整うまでは力強く代謝を行うことができない状態。

芝にとって人間の「ごはん」に相当するものは、肥料ではなく葉が光合成でつくる「糖」です。そもそも、私たち人間がたべている「お米」も、イネが光合成でつくった糖のお裾分け。
春の芝の4つの生育プロセスと芝生の手入れ

春の芝の4つの生育プロセスと芝生の手入れ肥料は、芝にとってはいわば「おかず」です。ごはんをしっかり食べるようになってからこそ、必要となるものです。

芝が十分な光合成を実行できない段階では、肥料を急ぐ必要はありません。

肥料を撒いても芝の代謝がまだ緩やかなので、外部からの養分をあまり効率よく利用できません。一方、この時期の雑草たちは芝の勢力を追い越してグングン肥料をたべます。雑草との競合関係の観点でも、この時期の肥料散布は少し待ったほうが良いでしょう。

※これは「一つの考え方」です。肥料方針は人それぞれ。環境条件によっても異なります。

【4】生産しながら成長する時期

光合成によるエネルギー生産量 ≧ 成長に必要なエネルギー量

温度が安定して10℃を上回るようになると芝の葉数が増え、地表を緑で覆うようになります。

この時期になってようやく、芝は葉の光合成で生成する糖の量が自らが成長して身体の各器官を動かすために必要な消費エネルギー量と同等もしくは上回るようになります。

本来の根・茎・葉の生理的循環が本格的に稼働して、代謝が次第に活発化していきます。

芝は日に日に芽数を増やし、つつじの花が咲く4月下旬のゴールデンウィーク前頃には、すっかり芝生ができあがります。(千葉県北部の我が家の芝の場合)

春の芝の4つの生育プロセスと芝生の手入れ

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この状態になるまではコウライシバの芝丈は、あまり積極的には伸びてきません。芽数を増やす(横に増える)のに精一杯だからです。

葉の数が増え、充分な光合成ができる「芝生」の状態になると、芝の体幹は完成です。代謝が活発になって、いよいよ芝が上に伸び始めるようになります。

これで、暖地型芝草の春の目覚めから本格的に活動するまでの4つのプロセスの完了です。

この時期に適した芝生の手入れ:春の更新作業

芝は本来の代謝を始めています。この時期から梅雨入り前までの期間は、芝の更新作業「根切り」「エアレーション」「目土入れ」作業に最も適した時期です。

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根切り

コウライシバなど、種が退化した品種は「栄養繁殖」といって自分の身体のクローンをつくることで繁殖します。横に伸びる根を切断することで、切断面から新しい個体を作ろうという作用が促され、芝を若返らせる効果があります。これを芝生の「更新」といいます。

コウライシバ等の匍匐茎は、地表を横に這うストロンと、地下浅いところを横に這うライゾームの2つあります。垂直に切ることで、これを効果的に切断することができます。

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エアレーション(コアリング)

地表部の土は、冬の間、風雨にさらされて変質していることが多いです。他の園芸植物の場合は地表の土をほぐしてあげることで透水性がよくなり、地下に水分、空気が均一に浸透するようになります。

芝の場合、地表が覆われている為、土を直接ほぐすことが難しい上、芝の枯れた古い組織であるサッチ層が地表を覆います。サッチ層はある程度は必要ですが、溜まりすぎると水の届きを悪くしたり水を含んで風通しが悪くなり、病害や害虫の巣になってしまうこともあります。

エアレーションにより、これらの地表層を貫通する空気穴をあけることで、根の呼吸を促すとともに、サッチ層の分解を促進するなど芝にとても良い効果があります。

春の芝の4つの生育プロセスと芝生の手入れ

春の芝の4つの生育プロセスと芝生の手入れ芝の根は、その全長の半分の深さで70%の仕事をするといいます。
概ね2cm前後に刈込されたコウライシバの場合、根の深さは概ね10cm~20cm程度であることが多く、地表から5cm、8cm程度のコアリングでも十分にその効果を享受できます。

道具は、高価で本格的なものから、家庭向けに設計された簡易で便利な道具もあります。芝生の管理道具のひとつとして用意しておくことをオススメします。

春の芝の4つの生育プロセスと芝生の手入れ

【参考】コアリングの実施時期の考え方
芝の生育力の観点だけをとらえれば、今回ご説明した【4】の時期からが適期です。しかし、芝の根が充分に呼吸できないような土壌環境の場合は、時期を【1】に併せて実施してしまうのも有効です。

芝が根に蓄えた炭水化物を「エネルギーとして使う」ためには、根の酸素呼吸が必須です。それぞれのお庭の土壌環境にあわせて、実施時期を工夫してみてください。

目土・目砂入れ

根切りをしたり、コアリングをした後は、芝の根の切断部が外気にさらされた状態になります。過度な乾燥を防いだり、外敵からの不用意な浸入を防ぐためにも、根を切る作業をしたら、目土または目砂入れをして、根の切り口がむき出しにならないように保護してください。

春の芝の4つの生育プロセスと芝生の手入れ

根を切断した後の初期育成(芝が切られた根から、新しい組織を生み出す力)に効果が高いアルム顆粒を地中に埋め込む絶好のチャンス。目土・目砂に混ぜて使用することをオススメします。

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肥料

葉がそろって充分に光合成できるようになると代謝が活発になり、芝は養分を強く欲しがります。芽数・根数を増やすこの春の季節、特に有効なのはリン酸を多く含む肥料です。

しかし、リンは地表では流亡しやすく地中では鉄など他の物質と結合して効果的な扱いが難しい要素でもあります。

専門的な知識に詳しくない方は、まずは芝生用に専用設計された肥料を選び、パッケージに示されている「基準量」を参考に使うのが無難です。

春の芝の4つの生育プロセスと芝生の手入れ肥料は多すぎれば病害を招きますし、少なすぎれば芝よりも荒地に強い雑草が有利な環境となります。芝生用肥料のパッケージに書かれている散布時期、散布量の範囲内、上限よりやや少なめにおさまるように使うとトラブル発生のリスクを低減できます。

芝生用以外の肥料を使う場合は注意が必要です。肥料は、同じ量を土に撒いても、製品・種類によって肥効の出方が異なります。肥効とは、肥料養分を芝が食べられる状態で発現できる時期・期間のことです。

作物別専用肥料のようにオートマチックに肥効が最適化されるモノもあれば、一気に強く効くもの、長い時間をかけて肥効があがってくるもの等、実にさまざまです。使う肥料の性質をよく理解して、肥効が芝にとって適切に出現するように撒きましょう。

肥料は土壌との化学です。土の状態はそれぞれのお庭で異なります。

土のキャパシティーの範囲内に収まっている限りは、土壌の緩衝能が多少の変化を吸収してくれますが、許容量を超えると突然、植物に与える影響が強く出たり、複数年に渡り植物の生育に悪影響を及ぼす場合があります。

侮らず、用法・用量の範囲内で適切に使うことをオススメします。

病害対策

4月頃になって本格的に暖かい春の気候になると、さまざまな生物の活動が活発になります。芝の体幹がまだ充分に整っていないこの季節、芝を襲う病原菌の勢力が強くなると、芝がダメージを受け、病害が発生することがあります。

病原菌の活動を抑制する薬として殺菌剤があります。病原菌に適合した殺菌剤であれば、「対処療法」として病害の進行を抑えるのには有効です。

春の芝の4つの生育プロセスと芝生の手入れ

春の芝の4つの生育プロセスと芝生の手入れ
しかし、殺菌剤はあくまで最終手段。病害対策で最も大切なことは、「芝より病原体の方が優位になってしまう真の原因」を突き止め改善することです。

芝を強くするか、ある特定の菌だけが異常増殖できないようにするか。あるいはその両方に取り組むことが真の対策です。

病害対応の基本については、農業マガジン「芝生の病害はなぜ発生するのか ~原因と対処法~」で詳しく解説していますので興味がある方はご覧ください。

芝生の病害はなぜ発生するのか ~原因と対処法~

春に発生する深刻な病害の多くは、実は前年の秋にその原因が発生していることが多いです。病害を推定できたら、秋のうちに殺菌剤で対策しておくと、越冬する個体数を減らして春の病原体勢力を低下させることができる場合があります。

残念ながら感染してしまった場合も諦めないでださい。春から夏の季節は、日照の増加と気温の上昇により、芝の勢力がどんどん強くなっていく季節です。大抵の病害は、いずれ自然におさまり、芝のチカラで自力回復して緑の芝生になっていくことが多いです。

もし、芝が回復できないとしたら、環境に致命的な原因があることが考えられます。芝が育つ上で重要な環境要素は、充分な日照と水はけ、土の適切な柔らかさ、根の呼吸環境です。それを改善しない限り芝は健康に生育できません。

条件クリアが難しい場所では、適合する芝種を選ぶか、無理に芝を植えないことをオススメします。

おわりに

芝は植物。1年サイクルの長い時間軸で生命を営んでいます。人間側も焦らず、今起こっていることを観察して来年どう活かすか? 想像しながら手入れを組み立てていくと、とても長閑でたのしい趣味になります。

この寄稿で記した「芝生の手入れ」の適期については、芝の代謝の状態を中心に据えた基準値です。実際は、毎年異なる気候の影響や、それぞれのお庭の環境(特に土の状態)、オーナーの生活の都合等を考慮して、みなさんそれぞれの環境にあった調整をしていくことになると思います。

この寄稿が、みなさんの芝生づくりの一つの基軸としてお役に立てたら幸いです。

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