芝の育て方(東京40まいる)

芝生の病害はなぜ発生するのか ~原因と対処法~

<まえがき>
この寄稿では、家庭の芝生づくりに興味がある人向けに、日本で最もポピュラーな「高麗芝」を題材として、家庭芝生の魅力を少しずつお話しています。

前回のテーマ『芝はどうして緑の絨毯「芝生」になるのか』では芝の基本的な性質についてお話をしました。

  • 芝生は人間が「芝の性質」を利用して造る究極の「不自然」。
  • 芝刈りは、芝の生命を敢えて危機に陥れる有害な試練であること。

人間が敢えて過酷な条件を与えることで、芝は地ギワに葉の数を増やし、光合成できる葉の表面積を稼いで生命活動を維持しようとする。それが緑の絨毯「芝生」。

美しく整った人間の造作「芝生」は全力で生きているが故、エネルギー源に余力がありません。ふとしたきっかけで発生するのが病害。病原に芝の生理活動が阻害される事態です。

家庭芝生を楽しむ上で、この病害の理解は大切です。

この寄稿をお読みいただくことで、病害は当然に起こるものであることをご理解いただくと共に、お庭に合った効果的な管理方法を見つけるヒントとして、芝生づくりにお役立ていただけたら幸いです。

1.病害になりにくい「」と病害になりやすい「芝生」の違い

この画像は、6月から約2か月間、刈込みしなかった芝です。ごく少量の肥料だけを与え、理想的な水管理を続けたもの。

これぞ、本来の姿の「」です。

葉の長さは、長いもので20cmを超えます。これだけ葉が長いと、太陽の光をたくさん浴びて、光合成が盛んに行われ、余裕のあるエネルギー源を使って力強く生息します。

この状態では、殺菌剤などの農薬は必要としません。

芝の抵抗力 > 病原の攻撃力

 

一方、お庭の芝生は、こんなイメージです。

本来、自然体では20cm前後あるはずの芝の葉は、僅か数cmしか伸びないように、不自然に刈り込まれてしまいます。

同じ太陽の光を浴びても、芝の葉1本あたりの表面積は、自然体の芝の1/10、或いは1/20程度しかありません。

本来、強いはずの芝は、人間の手によって生命維持に有害となる入力である「芝刈り」を受け続け、光合成の効率を著しく低下させられます。

葉の光合成で生成する少量のエネルギー源(炭水化物・糖)をやり繰りしながら、なんとかして葉の数を増やし、光合成できる総面積を大きくしようとしています。

これが、私たちがつくる「芝生」というものです。

 

芝生づくりが他の農作物と違い特殊なのは、人間が敢えて有害な危機を与えることで、芝自身の生存本能を煽り、美しい絨毯を形成させる点です。

植物は葉の光合成で生成した糖がすべての活動の源。その製造装置である葉を芝刈り機で刈り取ってしまうワケですから、芝にとってはとんでもない緊急事態です。

だからこそ、葉の数を地際から増やして光合成効率を上げようとする。これが緻密な緑の絨毯をつくるメカニズムです。

POINT
葉が長い芝は抵抗力が強く、病害が発生しにくい。(野生化した芝など)
葉を短くカットした芝は抵抗力が弱く、病害が発生しやすい。

2.プロが造る究極美の芝生だって、病害に直面しつづける

「美しい芝生」といえばゴルフ場。プロの芝草管理技術者、グリーンキーパーさん達が高度な知識と経験に基づいて、日々の管理努力で造り上げる広大なターフ。芝の再生力の臨界点を知り尽くしているからこそ成せる芝の芸術です。

このような究極のゴルフコース、名門コースでさえ、時に大病害に見舞われることがあります。

人間が芝の生存能力ギリギリを攻めるストレスを与える限り、病害の発生リスクはつきもの。このような背景で、ゴルフ場のコース管理を舞台にさまざまな病害の症例が研究され、有効な薬剤・使用法が開発され続けています。その一部は、私達、家庭の芝生愛好家向けにも市販され、手に入れることができます。

3.実はゴルフ場よりも有利な家庭の芝生管理

家庭の芝生には、ゴルフ場とは異なる大きなアドバンテージがあります。

  • 目が行き届く狭い範囲に集中して管理できること
  • 毎日観察できること
  • 長期間観察できること
  • 出入りするヒト、モノ、動物を自分自身が管理できること

家庭の芝生の管理者であるオーナーさんは、いわば専属のグリーンキーパーです。

妥協なく庭の芝に向き合い、ご自身の庭の芝生の性質を知り尽くすことが可能なお立場です。

その管轄範囲(芝生の面積)は一般的に極めて狭く、単位面積あたりに注目できる時間は、ゴルフ場のグリーンキーパーさんより遙かに濃密なハズです。毎朝、雨戸をあけるたびに芝庭を眺めていると、不思議と芝の小さな表情の変化がわかるようになってきます。

家庭の芝生は、美しい芝生をつくることだけに専念できる、特殊環境なのです。

プロのグリーンキーパーさんのように、広範かつ専門的な知識は必要ありません。

来場者(ゴルフプレーヤー)のことを気にする必要もありません。

「最低限の基礎知識」と「芝を想う心」(愛情)さえあれば、誰でも経験を積んでいくにつれ「自分の庭だけはプロよりもプロ!」と云える熟練の管理者になれます。

4.芝生の病害はどんな時に発生するのか?

「病原体のせい」で芝が病気になると考えている人や「殺菌剤は芝を治す薬」だと誤解している人は多いと思います。

実は病原体がいるだけでは芝は病気になりません。殺菌剤を使ったからといって芝が治るわけではありません。

病害が発生するためには、3つの要因がすべて揃う必要があります。どれか一つでも欠けると病害にはなりません。

  • 素因: 芝の弱さ
  • 主因: 病原体の存在(勢力)
  • 誘因: 病原が芝に勝る環境(天候・水溜まり・温度・湿度など)

芝の弱さ(素因)

人間でも風邪をひきやすい時と、風邪をひかない時があるように、芝も、ものすごく元気で生理的活動を盛んにしている場合は、簡単には病原体の侵入を許しません。

そもそも植物は悪い菌などの侵入を防御する仕組み(丈夫な細胞壁や新陳代謝・外敵から護る表層部など)を持っています。

その表層分についた傷の回復力が衰えていたり、身体を機能させるために必要な様々な要素の取り込み・排出に過不足が起こると、本来あるべき機能が正常に働かず、外敵が芝の体内に侵入する隙を与えます。

病原体の存在(主因)

病気の原因となる病原体は無菌室で育てない限り、多かれ少なかれどこにでもいます。

病原体がいるから即、病気にかかるわけではありません。

病原体の存在(主因)

菌同士は互いにけん制や共存し合いながら、所狭しと住処を奪い合って生きています。だから、そう簡単にアル特定の菌(病原菌)だけが増殖できるわけではありません。

病原体が攻撃力を高めるには、特定の環境が必要になります。

病原が芝に勝る環境(誘因)

「雨が続く」「湿気が多い」「陽が当たらない」など、芝生の病害発症のトリガーとなる環境については、病害に悩む人なら経験則でよくご存知ではないでしょうか。

芝生の病害は、「素因」「主因」「誘因」の3つの要素がすべて揃ったときにだけ発生します。

春と秋、そして梅雨に芝生の病害が多く発生するのは、この3つの要因がすべて成立しやすい季節だからです。

春と秋

外気温がそれほど高くなく日照が充分でないため(誘因)、芝の生理的な活動が鈍く(素因)、病原体のほうが活動が活発である(主因)から。

梅雨

雨が多くて地面や芝の葉の表面がいつも濡れていることで(誘因)、水を媒体として病原体が増殖(主因)すると共に、日照不足や冠水(誘因)で芝の根の呼吸・葉の光合成が停滞して一時的に芝が弱る(素因)から。

同じお庭では、環境を改善しない限り、誘因が整うと毎回同じような病害が発生します。病原体は、殺菌剤で死滅するわけではなく、一部は土や残渣などに生き残り、次の機会を待って潜んでいるからです。

よく観察しておくと、だいたい毎年、同じような環境条件が整った時に、同じような病害の出現を繰り返していることに気づきます。

お庭の病害傾向さえつかめれば、病原体が芝を攻撃する前に、病原体の数を減らす「予防殺菌」を効果的に行うことができます。

5.殺菌剤は芝を治す薬ではない

「予防殺菌剤」「治療殺菌剤」という言葉があるために、あたかも「芝を治す薬(治療薬)」が存在するように誤解しそうですが、実際は、芝生用殺菌剤がやってくれるのは「病原菌の個体数を減らす」ということだけです。

一時的に芝が回復する「機会を与える」に過ぎません。

6.芝を治すのは、芝自体のチカラ

病原菌の個体数が減ってくれれば、執拗に生理的活動を邪魔されることが減ります。

これによって、芝本来の生理的循環が機能し、その芝の基礎的な「体力」が発揮できるようになります。

だから「回復力」は、その芝の生育環境の影響を大きく受けます。環境が整っていて強い体力を持った芝であれば、力強く回復できるでしょうし、環境が悪い、弱い体力の芝は回復に時間がかかるか、あるいは、回復できずに枯れてしまうこともあるでしょう。

殺菌剤が病原菌の個体数を減らすことができるのは一時的であり、いずれまた、時間の経過と共に病原菌は増え、同じような環境になったら病害の発病を繰り返すことになります。

だから、殺菌剤を上手に活用すると共に、根本対策である「生育環境」を整え、芝自体の体力を強くするという改善が必要なのです。

7.芝が元気になる環境とは?

芝が元気になる環境は、実はシンプルで以下の通りです。

1.葉に充分な日照を浴びさせること

2.根が水と空気を吸える環境を維持しつづけること

この2つさえあれば、芝の生理機能は正常に循環します。

あとは、肥料・資材を多すぎず少なすぎず与えると、根が効率よく吸収して芝のカラダづくりに活用してくれます。

こうして健全に生まれた芝の葉を、適切な刈込高で芝刈りし続ければ、芝が元気に生理的活動を活性化(つまり新しい細胞づくりを盛んに)して、密度の濃い芝生ができあがるわけです。

芝生の管理では、日照自体はコントロールすることができませんので、芝丈(葉の総面積)を調節して、その土地の日照に合わせた最適値を見つけることでバランスを整えます。

根は、もう少し複雑な要因が絡み合います。

8.芝が弱くなるBADサイクル(※害虫による食害を除く)

土の中にある根は、さまざまな環境要因からストレスを受けています。

こうならないために、根の通気・通水環境を良好に保つと共に、肥料等のあげ過ぎに注意する必要があります。

9.根の健康を保つための芝生の手入れ

1.サッチの除去で地ギワの通気・通水環境を保つ

芝が活発に細胞分裂をするほど、地ギワに芝が脱ぎ捨てた古い組織が溜まっていきます。

神経質になる必要はありませんけど、あまりに多くなると根の環境を悪くしますので、年に1回くらいは減らしましょう。地ギワの通水・通気環境を良くすることは、地表部の蒸れを低減することにもつながります。葉の気孔からの蒸散の円滑化を促し、芝体内の養水分循環を活性化する等、さまざまな利点が得られます。

2.エアレーションで地中に空気を届かせる

地表から根に空気を届ける通路をつくる手入れです。特に、土を円筒形にくり抜くコアリングという手法は、効果の持続性が高く、春先~梅雨入り前までのシーズンに施すことをオススメします。

コア穴には、透水性の良い砂に根の発根促進材アルム顆粒を少量混ぜたものを詰めておくと、一層、効果的です。

3.芝の上に水溜まりができないように排水する

雨が降った後、長い時間水が溜まり続けると、菌の多様性バランス(相互牽制)が崩れ、病原菌が増殖する(強さを増す)原因となります。芝生の上に如何に水たまりをつくらないかは、病害対策としてとても重要です。

4.多すぎても少なすぎてもいけない散水

特に真夏の晴れ続きの時などは「水切れ」に注意が必要です。芝の葉が丸まって針のような姿になっている時、光合成をはじめすべての活動は停止しています。

人間でいえば「息を止めている」状態。そう長くはもちません。水やりの理想は、多すぎず、少なすぎず。

プロの世界ではよく「水やり3年」と云います。そのお庭のその土の環境で、最も良い水分状態を保つ水の撒き方、ペースを見つけるのも、芝生づくりの攻略の一つです。

5.肥料をあげすぎないように注意

家庭の芝生づくりで誤解が生じやすいトラップは、「肥料をあげればあげるほど、ぐんぐん美しく育つ」というもの。ついつい、さまざまな肥料を次から次へと投入したくなってしまいます。

そのカラクリは、市販の肥料・資材の用法・用量は、さまざまなお庭の土壌のキャパシティーを考慮して不特定多数の人が使用しても健全に効果を発揮できる「安全領域」に設定されているため。土のキャパシティーに余裕(安全マージン)を残しています。

この緑のゾーンの範囲内であれば、土壌の緩衝能に護られて、投入した肥料や資材は、オートマチックに植物に安全供給されます。だからパッケージに書かれている用法・用量を守っている限りは、何も専門的なことを考える必要はありません。

しかし、芝がどんどん美しくなるから・・・と、さまざまな肥料を複合的に多く土に投入していくと、やがては、このキャパシティーを超え、芝の根を攻撃したり阻害したりするようになります。

肥料・資材の投入は「用法・用量を守って正しく使いましょう」。これが鉄則です。

10.芝のチカラを強くするバイオスティミュラント「アルムグリーン」

世界中が化学農薬の使用低減に取り組む中、今、農業の分野で大注目されている第4の資材、バイオスティミュラント。

これまでの「肥料」「農薬」「土壌改良剤」の概念とは違う「植物の能力自体を高める」効能を備えたBIO(生物)STIMURANT(刺激剤)です。

アルムグリーンが漢方生薬で日本唯一の農水省農薬登録を取得したのは、今から30年前。アルム農材さんは、遙か昔からバイオスティミュラント資材を農家や芝生愛好家に提供していたワケですから驚きです。アルムグリーンの定期散布により、芝の根の発根を促し、芝の基礎体力を上げることは、病気になりにくい芝生づくりのベースとなります。

これからの時代、ますます、このような実力のある安全な製品が評価されるようになると思います。時代がやっとついてきたわけです。

まとめ

  • 人間が芝丈を短くしてつくる「芝生」は野生の「芝」に比べ病害への抵抗性が弱い。
  • 庭の芝生の特性をよく観察し続ければ、病害の発生時期は予測できる。
  • 病害発生前に予防殺菌で病原菌の個体数を減らすことが効果的。
  • 殺菌剤は芝を治療する薬ではなく、病原菌の数を減らすだけの薬。
  • 芝が回復するのは、芝自身のチカラ。
  • 強い芝をつくるのは、適切な芝丈と根の環境。
  • アルムグリーンの持続的使用は、芝の抵抗力を強くするのに役立つ。

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